算数の授業をしたことがあっても、『理想化』という言葉を知っている教員は、そう多くはないのではないでしょうか。
しかし、算数の授業は、この『理想化』なしにはなりたちません。このページでは算数における『理想化』とは、どういうことなのかを説明します。
もくじ
大辞林では、
国語辞典の代表格、大辞林では、『理想化』について下のように載っています。
算数では、学習するための不要なものを取り除いて、物事を理想的なものにして考えます。
それでは、算数の授業で、どのような『理想化』が行われているのか、例をあげてみていきます。
サッカーボールは球?
1年生の立体図形の学習では、身近にあるものを、その形に注目して仲間わけをします。
例えば、下の4つの形を仲間に分ける学習では、
転がる形と転がらない形で分けます。
そしてさらに、下のように3つの仲間に分けていきます。
たしかに、サッカーボールは「ボールのような形」です。
しかし、「サッカーボールは球(きゅう)か?」と問われれば迷ってしまう人もいるのではないでしょうか。
サッカーボールは五角形と六角形から作られます。ですから、角があるんですね。
しかし、算数の学習では、表面が滑らかであると理想的に考えて、球として扱うのです。
蛇足:正多面体は転がるのか?
1年生の学習では、サッカーボールや野球のボールは「転がる形」として扱います。一般的にも、「ボールだから転がるだろ。」と考えますよね。
では、下の正二十面体は、転がりますか?
では、正十二面体は?正四面体は?
正四面体は転がりそうにはないですよね。こう考えると、「転がる」という定義は何なんでしょうかね。そこまで深く考えないことも、理想化の1つなのかもしれません。
マシンのような正確さ
「1dLで2㎡ぬれるペンキがあります。このペンキ5dLでは、何㎡塗れますか?」
答えは、もちろん10㎡です。
が、1dLで2㎡ぬれるからといって、同じように、均一に、10㎡も塗れるかと言ったら、現実には難しいですよね。
授業中に「先生、全く同じように塗れるこの人はペンキ塗りのプロですか?」なんて言ったら確実に怒られます。
しかし、そのように考えないと問題として成り立たなくなりますね。
実際にやってみると違うかもしれないけれど、都合がいいように理想化して考えているんですね。
常に同じ速さで走る少年
5年生の速さの学習に、
「男の子が時速15kmの速さで、家から30km離れた親戚の家まで行くと、何時間かかるでしょう」
という問題があったとします。
この男の子は、常に時速15kmで走ります。ひと漕ぎ目から、時速15kmに加速し、止まるときは一瞬で止まるのです。
途中、信号に引っかかることもありません。カーブも上り坂も常に時速15kmで走ります。
時速15kmというのは、この男の子の平均的な速さを表しているのです。
もちろん授業では、「男の子の平均的な速さは時速15kmでした。」ということは暗黙の了解となっており、言及はしません。
途中、信号機もなく、まっすぐな道ですよ。速さは時速15km(平均)としますよ。という理想で考えているわけですね。
もし、理想化がなければ…。
もし、理想化をしなかったとしたら、
「男の子は、0.90 m/s2で加速しながら家をスタートし、途中5回の信号機にそれぞれ1分ずつ止まり、R100のカーブを…」
と、とんでもない問題になってしまいます。
このように、算数の学習では、知らず知らずのうちに『理想化』が行われているのです。授業中に、この『理想化』を指摘する児童もいるかもしれません。
「先生、表面張力があるから、もう少し水が入ります。」
「弟を追いかける自転車のお兄さんは、近づいたらお~いって呼ぶよね。」
などなど…。
こういった子を「馬鹿なこと言ってないの!」と一蹴するのではなく、その発言をどう授業に生かすのかが、腕の見せ所なのだと思います。
[…] 算数を究める算数に欠かせない『理想化』とは!?https://mathematicalpapyrus.com/%e7… […]
[…] 算数を究める算数に欠かせない『理想化』とは!?https://mathematicalpapyrus.com/%e7… […]